第434回 不正競争行為の処分に関する包括条項

 公平交易法(公正取引法、以下「本法」)第25条「本法に別段の定めがある場合を除き、事業者は他の取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔(きもう)または著しく公正を欠く行為もしてはならない」は、補足的な性質の包括条項です。事業者の競争行為の態様は非常にさまざまであるため、本法で一つ一つ列挙することはできません。漏れや不十分なところが無いようにするため、本条が補足的に適用されるようにしています。

 このため、本条を他の条文に適用することはできませんが、事業者が情報の非対称性を利用したり、市場での相対的な優越的地位に乗じたりして、「欺罔」または「著しく公正を欠く」取引手段により、消費者の権益に損害をもたらし、かつ「取引秩序に影響を及ぼすに足りる」状況に該当する場合に初めて本条が適用されます。その効果として、本法第42条によりますと、営業停止などを命じられ、かつ5万~2500万台湾元(約23万~1億1500万円)の課徴金を課され、なお改善しないときは、改善されるまで、1回に付き10万~5000万元の課徴金を課される可能性があります。

無料体験中の強引な売り込み

 2022年7月初め、公平交易委員会(公平会、公正取引委員会に相当、以下「公平会」)が初めて本条に基づき、不正なマーケティングを行った美容業者に対し、最高額である2500万元の課徴金を課しました。当該事業者は商品の販売プロセスで重要な取引情報を隠蔽(いんぺい)し、消費者を誤導しました。

 その手法は、「街頭で消費者に店内でのアンケート記入をお願いし、あまり時間を取らせない、売り込みもしないことを強調するとともに、無料のフェイスケア体験も提供できると誘い、消費者がフェイスケアのため身動きしにくい間に、強引な売り込みを行って購入させていた」、「売り込み時にちょうど販促キャンペーンの優待期間中であると伝えておきながら、実際は通常の販売価格だった」などがあります。

最高額の課徴金

 公平会は、▽当該事業者が台湾で設立した営業拠点が150店余りに上ること、▽当該グループの年間平均売上高が10億元に達していること、▽直近3年で1万人以上の顧客を有し、苦情申し立てを行った消費者は700人余りに達したこと、▽違法期間が少なくとも3年以上であること──などの要素を考慮し、法定の最高額、2500万元の課徴金を課しました。

 本法第25条の定める内容は非常に抽象的であり、該当するか否かは、通常、公平会による処分の前例を見て判断する必要があります。台湾での商行為が本法に違反するか懸念がある場合には、高額な課徴金を課されるリスクを極力低減させるため、現地の法律専門家にご相談いただくことをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。