第454回 慰謝料

 いわゆる「精神賠償」とは、「財産以外の損害の賠償」を指し、一般的には「慰謝料」ともいいます。

 その台湾法上の根拠は民法第195条「(第1項)他人の身体、健康、名誉、自由、信用、プライバシー、貞節を違法に侵害し、またはその他の人格的法益を違法に侵害し、情状が重大な場合、被害者は、財産上の損害でないとしても、相当の金額の賠償を請求できる。その名誉が侵害を受けた場合、名誉回復のための適切な処分を請求することもできる。(第2項)前項の請求権は、譲渡または相続することができない。ただし、金銭賠償の請求権が契約によりすでに約束されているとき、またはすでに提訴しているときは、この限りでない。(第3項)前二項の規定は、親子または配偶者の関係に基づく他人の身分上の法益を違法に侵害し、情状が重大な場合、これを準用する」です。

 上記の規定により、他人の人格権を違法に侵害し、または、親子または配偶者の関係に基づく他人の身分上の法益を違法に侵害し、情状が重大な場合であり、かつ被害者が精神的苦痛を受けていさえすれば、加害者は財産以外の損害に対する賠償費用、つまり「慰謝料」を支払う必要があります。

 被害者が慰謝料をいくら獲得できるのかということにつきましては、訴訟において、裁判官は加害行為の軽重、被害者の苦痛の程度、双方の資力などの要素を斟酌、認定します。

廃棄物による慰謝料請求例

 最高法院(最高裁判所)の2018年度台上字第3号民事判決を例にとると、裁判所は、被告・中国石油化学工業開発(CPDC、中石化)が廃棄物を適切に処理しなかったため、土壌、河川、住民の健康などを汚染したと判断しました。控訴人が原告の住民に支払うべき慰謝料の基準は以下の通りとされました。

1. 居住の平穏という人格的法益が侵害を受けた部分については、1人当たり7万台湾元(約31万円)とする。

2. 健康が侵害を受けた部分については、体内のダイオキシン類濃度32ピコグラムを基準として20万元を支払うこととし、1ピコグラム超えるごとに5000元を適宜追加する。

3. 身体が侵害を受けた部分については、がんを罹患した者には30万元を適宜追加し、第二種糖尿病に罹患した者には40万元を適宜追加する。

 当該判決は参考するに値します。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。