第459回 日台の相続に関する国際裁判管轄権

現在、台湾には約2万人の日本人が在留していますが、不幸にも台湾でお亡くなりになる日本人も中には存在します。
今回は、台湾に居住する日本人が亡くなった場合に、どこの国の裁判所が裁判管轄を有するかという点についてご紹介いたします。

日本法の場合

まず、日本の家事事件手続法第3条の11第1項では、「相続に関する審判事件」について、①「相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき」、②「住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき」、③「居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)」は、日本の裁判所が管轄権を有するとされています。

日本で住民票を抜いて台湾に住んでいる人が亡くなった場合、被相続人は①日本国内に住所がなく、②日本国内に居所もないと考えられ、また、外国(台湾)に住所があったと考えられることから③にも該当しません。

このため、相続人は、原則として、日本の裁判所で遺言書の検認や相続放棄といった手続きを行うことができません。

台湾法の場合

この点について、台湾の家事事件法第127条第1項では、相続放棄等の相続事件については、相続開始時の被相続人の住所地の裁判所が専属的に管轄する旨が規定されています。このため、上記例の場合、被相続人が死亡時に住んでいた場所の裁判所(台北地方裁判所など)が相続事件に関する裁判管轄を有することになります。

台湾の裁判所は必ずしも国際的な相続事件に慣れているわけではなく、上記日本法についての説明や関係法規の中国語訳の提出を求められることがあるなど、個人で対応するにはとてもハードルが高いです。遺産リストの作成や相続放棄には期間制限もあるため、台湾で相続が発生した場合にはすみやかに専門家に相談することをお勧めいたします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。