第458回 病歴は個人情報で違法に利用できない

台湾のある上場会社の主管が従業員の個人情報を漏えいしたとして、有期懲役2月という処分を下されました。

従業員が体調不良のため早退を希望したことに対し、この主管は社内メールを出して公然と揶揄(やゆ)したほか、社内のウェブ会議でこの従業員が帯状疱疹(ほうしん)を患っていることに言及しました。

従業員が告訴し、裁判所は、本件は個人情報保護法(以下、同法)第41条の特殊な個人情報を違法に利用した罪に当たると認定し、有期懲役2月に処し、有期懲役2月に代えて1日当たり1000台湾元(約4300円)の換算で罰金を科すことができるとする処分を下しました。

最高100万元の罰金も

従業員が病気休暇取得のために病院の領収書を主管に渡したため、主管はこの従業員が帯状疱疹を患っていることを知りました。

病気を患っていることは、同法第6条第1項における「病歴」の情報であり、同項ただし書きの所定の事由(例えば、▽法律に明文で定められている場合、▽当事者が自ら公開した個人情報の場合、▽適法に公開されている個人情報の場合、▽当事者が書面で同意している場合──など)がない限り、収集、処理または利用をすることはできません。自己もしくは第三者の不法の利益を図ること、または他者の利益を損ねる意図で、同規定に違反し、かつ他者に損害を生じさせるに足りるとき、5年以下の有期懲役に処され、100万元以下の罰金を併科されるリスクが存在します。

本件において、この主管が会議でこの従業員の病歴について言及したため、同僚がこの従業員の個人情報を知ることとなり、さらに従業員が早退を願い出たことを皮肉交じりに言いふらしました。

裁判所は、このような行為によって、ささいな事で自分勝手に休暇を申請し、同僚の負担を増やし、チームの足手まといになっているという悪い印象を持たせたことは、この従業員に損害を生じさせるに足り、同法第41条の罪を構成しているものと認定しました。

本件は主管と従業員との人間関係の問題であるように見えますが、個人情報の違法利用に及んだことから、主管が刑事罰を受けました。従業員の個人情報の収集、処理または利用時においては、雇用関係があれば、従業員の情報が自由に利用できるというものではないことにも、特に注意する必要があると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。