第502回 刑事補償法の改正、無実の罪の外国人が請求可能に

台湾の立法院(国会)が2023年12月5日に三読(三段階の審議)を経て「刑事補償法改正案(以下『新法』)」を可決しました。

新法では、外国人が台湾で無実の罪を着せられた場合、その外国人の本国と台湾とにおいて何らかの互恵条約が締結されているか否かにかかわらず、その外国人は冤罪被害者として無実の罪を着せられたことについて補償金を主管機関に対して請求できることが定められました。

減額や分割払いも

新法における他の重要な改正点は以下のとおりです。

1.新法では、「被害者が捜査または裁判を誤導する」行為が具体化、明文化され(例えば、被害者が共犯、証人と共謀すること、証拠を隠滅することなど)、また、前述の行為が行われた場合、主管機関は補償金を冤罪被害者に対して支払わなくてもよいことが定められました。(新法第4条)

2.旧法では、冤罪被害者に「帰責事由」がある場合、主管機関は補償金を減額できることが定められていました。

新法では、当該帰責事由について、法律要件が抽象的過ぎるために発生する、適用の誤りを回避するため、「被害者が命令により保証書を発行し、または保証金を納付した後に逃亡しまたは隠匿し、証拠調査を故意に妨害し」た場合という具体的な条件に改正されました。(新法第8条)

3.新法では、補償方法により柔軟性を持たせるため、冤罪被害者は補償金の分割払いを請求できることが定められました。(新法第10条)

4.新法では、冤罪被害者は無実の罪を着せられたことについての補償金請求事件において、主管機関から不利益な決定を受けた後でも、「新たな事実(例えば、死亡したと思っていた相手方が実際には死亡していなかったことなど)」を発見した場合、再審を求められることが定められました。(新法第21条)

5.新法では、冤罪事件の再発を防止するため、司法院は補償決定の確定後、必要な調査または検討を行い、かつ刑事判決における間違った判断の原因を分析しなければならないことが定められました。(新法第27条の1)

新法が可決されたことにより、犯罪の被害者のみならず、無実の罪を着せられた外国人の被害者も、より十分な補償を請求できるようになりました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。