第506回 消費者保護法に定める安全性

台湾の消費者保護法第7条第1項では、「商品の設計、生産、製造または役務の提供に従事する企業の経営者は、商品を提供し市場に流通させる、または役務を提供するに当たり、かかる商品または役務が、その時の科学技術水準または専門的水準上合理的に期待できる安全性を満たすことを確保しなければならない」と規定しています。

 もっとも、「その時の科学技術水準または専門的水準上合理的に期待できる安全性を満たす」というのは抽象的な表現であり、その具体的な範囲は、裁判所の判決を調べることによって定めなければなりません。

実際の判例

 台湾高等法院台中分院(台湾高等裁判所台中支所)の2020年度上字第154号民事判決では、「係争マッサージチェアは経済部標準検験局(経済部標準検査局)の検査に合格しており…、被告は答弁において、係争マッサージチェアは控訴人が訴えを提起する前にすでに販売数が累計で4000台余りを超えており、ほかの消費者から体の具合が悪くなるという報告があった事例もない。

 これについては控訴人も争っておらず、係争マッサージチェアは市場に流通するに当たり、その時の科学技術水準上期待できる安全性を満たしているものと認めるに足りる。

 すなわち、控訴人が負った係争傷害のみに基づいて、係争マッサージチェアがその生産、製造または加工、設計上前記の安全性を満たしていないこと、および、何らかの瑕疵が存在することを認定するのは難しい」との見解を示しています。

 また、台湾新北地方法院(新北地方裁判所)の2023年度訴字第1095号民事判決では、「被告は係争スーツケースの輸入に際し、経済部標準検査局に検証を申請しており、審査の結果は規定に適合しており、…。

 2020年9月24日の登録から現在まで、ほかの消費者から係争スーツケースを使用したことにより人身に傷害が生じたという報告があった事例はなく、係争スーツケースは市場に流通するに当たり、その時の科学技術水準上期待できる安全性を満たしているものと認定するに足りる」との見解を示しています。

裁判所の判断基準

 以上の判決を見ると、裁判所は、

①「経済部標準検査局の検査で合格した」②「同様の問題がほかの消費者から報告されたことがない」の2点に基づいて「その時の科学技術水準または専門的水準上合理的に期待できる安全性を満たしている」と判断する傾向にあります。

 よって、台湾で消費者に商品または役務を提供する場合には、信頼性の高い政府機関または団体による検査で合格することのほか、多数の消費者が使用しても問題が提起されなかったことを証明できるよう販売数量または使用した延べ人数などのデータを常に統計しておくこともお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。