第508回 不適切な行為をSNSで唱道した場合の刑事責任

台湾では近日、珍しい社会的事件が発生しました。「ジェームズ」というインフルエンサーが2024年1月下旬に「大型スーパーマーケットでどうやって無償で飲み食いするか教えます」というタイトルでインスタグラム(IG)に複数の動画をアップロードしたというものです。

動画は、当該インフルエンサーが全聯福利中心(PXマート)、家楽福(カルフール)において、ポテトチップスやキャンディ類、ヨーグルトドリンク、ジュースなどの商品を勝手に開封し食べた後、商品を棚に戻し、代金も支払わないという内容でした。

ジェームズは動画で食品をまずいと批判した上、これは一種の「シェア」であり、大型スーパーでどうやって無償で飲み食いするかネットユーザーに教えることが目的だと吹聴しました。

ジェームズのこの常軌を逸した行為は台湾社会の怒りを買い、強い非難を浴びました。警察は1月29日、台中市で当該インフルエンサーを逮捕し、刑法第153条における他人への犯罪教唆という罪、毀損罪(器物損壊罪)などを犯した容疑で台中地方検察署(地検)に移送し、捜査・処理を進めました。

不適切行為の動画

台湾刑法第354条では、「他人の物を破壊・遺棄、損傷、または使えない状態にし、公衆または他人に損害を与えるに足りる場合には、2年以下の有期懲役、拘留または1万5000台湾元(約7万2000円)以下の罰金に処する」と定められています。ジェームズがスーパーの売り場で食べた飲食物はもう他人に販売できなくなってしまっているため、本罪の構成要件を満たしています。

同法第153条では、「以下の各号に掲げるいずれかの行為を文章、絵や画像、演説またはそのほかの方法により公然となした場合には、2年以下の有期懲役、拘留または3万元以下の罰金に処する。

1.他人に犯罪を教唆したとき

2.法令に違反するまたは適法な命令を拒否することを他人に教唆したとき

と、定められています。

ジェームズがインスタグラムに動画をアップロードし、スーパーでどうやって無償で飲み食いするかネットユーザーに「教える」ことは、本条の「他人に犯罪を教唆」することにもほぼ該当します。

フェイスブック(FB)、インスタグラム、X(旧ツイッター)などのSNSを閲覧することは、すでに多くの人の日常生活の一部となっており、SNSの動画を撮影することも、少からぬ人の趣味や生計を立てる手段となっています。ただし、好ましくない行為をSNSにおいて文章または動画で提倡する場合、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。