第60回 解雇手当における平均賃金の算定方法

台湾において、使用者は、合理化による職種の消滅といった経営上の必要性が認められる場合には、労働者を予告解雇することができる。

その際、労働者に勤務期間1年ごとに1か月分(旧制度。労働基準法17条)または2分の1か月分(新制度。労働者退職金条例第12条)の平均賃金相当の解雇手当を支給しなければならない。なお、平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日の前の6か月間に、当該労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう(労働基準法2条4号)。

この平均賃金の算定方法に関連して、海外赴任時に、台湾本社と海外グループ会社である現地法人との間で、海外勤務者の給与に関する費用分担が決められたことから、海外勤務者を解雇する際の平均賃金の算定方法が問題になった事件がある。

本件の概要は以下の通りである。

原告Xは1983年から台湾企業である被告Y社に雇用され、98年からは、香港や中国におけるYの海外現地グループ会社C、D等の現地法人に勤務していた。2005年にYは合理化による職種の消滅を理由にXを解雇した。

Xは解雇された日の前の6か月間の賃金の総額について、毎月の海外基本給29万台湾ドルのほか、海外勤務手当、海外勤務の住宅手当、出来高ボーナス、端午節及び中秋節ボーナスなども加算して、平均賃金は52万台湾ドルであると主張し、XがYにおいて22年間勤務していたことから、旧制度に基づき、解雇手当として、22か月分の平均賃金相当額である合計1144万台湾ドルの支払いをYに求めた。

Xの主張に対し、13年3月5日の台湾高等裁判所101年度重労上更(二)字第1号判決は、以下の通り判示した。
1)海外勤務手当とは、海外勤務者が赴任先国において、現地の労働条件、物価、生活環境、慣習等への適応が迫られることにより、海外で生活を送る上で不便や困難を感じたことに起因して発生した、追加の生活費等を海外勤務者に補填するために、使用者が定期的に支給するものである。従って、当該海外勤務手当はXが海外という生活環境において労働することにより取得する対価であり、労働基準法2条3号の賃金に当たる。

2)海外勤務者の住宅手当は、海外で生活を送る上で不便や困難を感じたことに起因して発生した、追加の生活費等を海外勤務者に補填するために、本国の使用者が定期的に支給するものである。しかも、Xは家賃に関する領収書を提出しなくても、当該住宅手当の支給を受けることができる。従って、海外勤務の住宅手当はXが海外という生活環境において労働することにより取得する対価であり、賃金に当たる。

3)出来高ボーナスは、Xを含め、労働者の出来高に応じて労働の対価として支給されるという取り扱いがなされてきたため、賃金に当たる。また、名義上Xに当該ボーナスを支給するのはYである以上、当該ボーナスは現地法人DとXとの雇用契約によって、DがXに対し支払われた賃金に当たるということはできない。

4)端午節及び中秋節ボーナスなどの賞与は、恒常的に支給されてきたとはいえ、労働基準法施行規則10条にネガティブリストとして列挙されていることから、賞与は単なる恩恵的な給付にすぎず、労働の対償として支給される賃金に属さない。

上記のように、海外勤務者の解雇手当を算定する際の「平均賃金」には諸手当も含まれるケースがあるため、この点について注意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。