第73回 従業員の就業規則違反による解雇

台湾高等裁判所は、2014年10月9日に13年労上易字第120号刑事判決を下し、労働基準法(以下「労基法」という)第12条第1項第4号に規定されている「労働契約または就業規則に違反し、情状が重大である場合」について、従業員の規則違反行為の態様、初回かそれとも2回目以上か、故意かそれとも過失かなどを判断の基準にしなければならず、労働契約または就業規則の内容のみによって重大であるか否かを決めてはならないと指摘した。

本件の概要は以下の通りである。

甲、乙は、もともと丙社に勤務し、それぞれ営業所の副所長、営業員の職を務めていた。丙社は、甲が在任中に管理、監督の職責を果たしておらず、多くの業務員が横領、背任などの規則に違反する状況が生じ、また、乙には無断で会社の製品を低価格で販売したなどの状況があると判断した。従って丙は、甲、乙が就業規則第34条(「業務を怠慢しまたは重要な任務をおろそかにし、会社をして重大な損失をもたらした場合」)に違反したと判断し、労基法第12条第1項第4号に基づき甲、乙を解雇した。それに対し、甲、乙は、丙の解雇が法律に合致していないと判断し、労基法第11条に基づき、丙との労働契約を終了し、かつ丙に対し解雇手当を請求した。

「情状が重大の証拠なし」

裁判所は、審理の上で、甲、乙の勝訴の判決を下した。主な理由は以下の通りである。

1)労基法第12条第1項第4号では、「従業員が労働契約または就業規則に違反し、情状が重大である場合、使用者は予告することなく契約を終了することができる」と規定されています。いわゆる「情状が重大である」は、従業員の規則違反行為の態様、初回かそれとも2回目以上か、故意かそれとも過失か、使用者および営業所にもたらした危険性または損失、従業員の勤務期間などを判断の基準にしなければならず、労働契約または就業規則の内容のみによって重大であるか否かを決めてはならない。また、当該従業員の行為がすでに労使関係を破壊しており、使用者がほかの軽微な手段を利用して引き続き関係者を雇用し難い場合に限り、使用者ははじめてこの規定に基づき労働契約を終了することができる。

2)本件では、丙は、甲、乙が労働契約または就業規則に違反し、情状が重大である事実を十分に裏付ける具体的な証拠を提出していない。

30日過ぎての解雇は無効

3)なお、甲、乙にこのような事実が存在しても、労基法第12条第2項の規定に従って、丙は、甲、乙に労働契約または就業規則に違反する状況が存在することを知ってから30日以内に解雇しなければならない。しかしながら、本件では丙の解雇行為は30日を過ぎているため、丙の解雇は法律に合致していない。

労働者保護の立場に基づき、実務上、裁判官は、通常、使用者による解雇行為の適法性について厳格に審査している。従って、使用者は、従業員の労働契約または就業規則の違反によって従業員を解雇しようとする場合、事前に十分かつ具体的な証拠を収集し、かつ法定期間内に解雇を行わなければならないことに注意すべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。