第118回 会社名義の保証責任が否定される場合

会社法第16条第2項によれば、会社責任者が、他の法律または会社の定款に基づかずに会社に保証を行わせた場合、会社責任者は当該保証責任を自ら負わなければならず、また会社がこれにより損害を受けた場合、賠償責任も負わなければならないとされているが、会社責任者が会社名義で締結した保証契約について、同条項に基づき、会社の保証責任が否定された裁判例が存在する(2013年5月27日付の台湾新北地方法院13年度建字第45号民事判決)。

会社責任者が保証責任

上記裁判例の概要は次の通りである。

原告X社は被告Y社が発注したプロジェクトを請け負い、両者は12年7月にプロジェクト請負契約を締結した。

X社によって本件プロジェクトが竣工され、かつ、検収の結果、瑕疵(かし)はないにもかかわらず、Y社が支払いを拒んだため、契約および請負関係に基づき、Y社に対してプロジェクト費用および遅延利息の支払いを請求した。

これに対しY社は、別件で13年6月に第三者であるA社と、注文者をA社、請負人をY社とするプロジェクト契約を締結したが、Y社の幹部である乙とX社の会社責任者(董事長)である甲は懇意にしていたため、甲はY社が請け負ったA社のプロジェクトに鉄工の施工業者が必要であることを知って、B社を鉄工の施工業者として乙に推薦、さらに甲は、B社がY社との契約に違反した場合はX社が責任を負う旨の保証をした。その後B社はY社との契約に違反したことから、Y社はB社に対して60万台湾元の損害賠償を請求したほか、X社に対してもY社の損害について保証責任を履行する旨の抗弁を主張した。

規定がなければ個人の責任に

上記に対し台湾新北地方法院は、会社法第16条第1項は、会社は他の法律または会社の定款に基づき保証を行うことができる場合を除き、いかなる保証人にもなることができないと規定し、同条第2項は、会社責任者は前項の規定に違反した場合、自ら保証責任を負わなければならず、会社がこれにより損害を受けた場合、賠償責任も負わなければならないと規定するが、本件では、X社の定款には保証することができる旨の記載がなく、また他の法律にもX社が保証することができる旨が規定されていないため、X社はいかなる者の保証人にもなることができないことから、たとえ甲が、X、Y社間の保証契約を締結したとしても、X社は保証責任を負わず、甲が自らそのすべての責任を負わなければならないとして、Y社の主張を退けた。

上記の通り、会社責任者による保証であっても、当該保証が他の法律または会社の定款に基づかない場合、会社の保証責任は否定される。

そのため、取引先の会社から保証提供の申し入れがあった場合、事前に当該会社の定款に会社が保証することができる旨の記載があるかどうか、または他の法律において当該会社が保証することが認められているかどうかを確認する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)