第189回 株式公開発行会社における給与報酬委員会について

台湾の会社法によれば、会社の董事、監査役の報酬については、会社の定款または株主総会決議で決定しなければならず、支配人の報酬については、株式会社の場合、当該会社の董事会決議で決定しなければならない。

しかし、株式公開発行会社については、台湾の証券取引に関する主管機関「行政院金融監督管理委員会」(以下「金管会」という)が策定した「株式を証券取引所に上場するまたは証券会社の営業所で売買する会社の給与報酬委員会設置および職権行使規則」に従う必要がある。

同規則によれば、株式を証券取引所に上場するか、または証券会社の営業所で売買する(通常店頭公開を指す)会社は、給与報酬委員会を設置しなければならない。また、委員会のメンバーについては、董事以外の人員を選任しなければならない。

さらに、会社が独立董事を設置している場合は、そのうち1名の独立董事が、給与報酬委員会の招集者および議長を担当しなければならない。会社が独立董事を設置していない場合は、メンバー同士の互選により1人を招集者および議長として推薦することになる。

次に、給与報酬委員会は、董事、監査役および支配人の報酬について、董事会に提案を行う。董事会は同提案の可否を判断するが、否決する場合には、3分の2以上の董事が出席する董事会で、出席者の過半数によって否決しなければならない。その場合、董事会決議内において、董事会が提案する別の報酬案が給与報酬委員会の案よりも優れていることを具体的に説明する必要がある。さらに、董事会が給与報酬委員会の提案を否決する場合には、董事会自らが提案する報酬案を可決する必要があるものと解され得る。

金管会の管理意向を反映

このように、株式公開発行会社の董事、監査役および支配人の報酬について一般の会社とは異なる規則が設けられたのは、株式公開発行会社の董事、監査役および支配人の報酬が世界的な潮流に従い増加する傾向にある中で、投資家(株主)と会社経営陣(董事、監査役および支配人)との間で、(株式)配当と董事、監査役および支配人の報酬とをめぐって、会社利益をいかに分配するかという対立が生まれつつあったことから、金管会がこのような事態に対して、欧米の法制を引用し、取引所内で取引を行っている株式公開発行会社の董事、監査役および支配人の報酬を管理したいと考えたからである。

株式公開発行会社以外については、会社法に従えば足りるため、海外企業の台湾支社が、「株式を証券取引所に上場するまたは証券会社の営業所で売買する会社の給与報酬委員会設置および職権行使規則」に従わなければならないケースはそう多くはないものと解される。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。