第190回 台湾法上の「独占」について

韓国の公正取引委員会(KFTC)は2016年12月、携帯電話用チップの大手メーカーであるクアルコムに対し、クアルコムがその携帯電話用チップ市場における独占的な地位を利用して、携帯電話メーカーに対しクアルコムが一方的に制定した条項に従ってロイヤリティーを支払わせたことを理由として、1兆300億ウォン(約8億6,500万米ドル)の罰金を科した。この罰金は韓国史上最も高額な罰金額であったため、かかる案件はアジア各国・地域の注目を集めた。

台湾の公正取引法(以下「本法」という)にも独占行為に関する関連規定があり、本法第7条には「(第1項)本法にいう独占とは、事業者が関連市場において無競争状態にあり、または圧倒的な地位を有し、競争を排除できる能力を有する場合を指す。(第2項)2つ以上の事業者が、実際上は価格競争を行っていないが、その全体的な対外関係において、前項に規定されている事由を有する場合、独占とみなす」と規定されている。また、同法第8条第1項には「事業者に次の各号に掲げる事由がない場合、前条の独占事業者の認定範囲に入れない。一、関連市場における1つの事業者の占有率が2分の1に達する。二、関連市場における2つの事業者の合計占有率が3分の2に達する。三、関連市場における3つの事業者の合計占有率が4分の3に達する」と規定されている。

自由競争の妨害を禁止

本法は事業者による独占の存在を禁止するわけではないが、独占企業がその市場における地位を乱用して市場の自由競争を妨害する行為を禁止している。

例えば、A社は運動靴を製造し、70%の市場シェアを有する独占企業である。A社が代理店に対しA社の運動靴しか販売してはならず、B社の運動靴を販売してはならないと要求した場合、このような行為はB社の市場参入を妨害するため、公正取引法が禁ずる行為となる。

また例えば、C社はガソリン販売の独占企業であり、国際的な原油価格が50%下落している場合において、C社もコストの低下により、ガソリンの販売価格を値下げ調整しなければならない。このとき、C社がなお値下げを拒否するのであれば、それは市場地位を乱用した独占行為であるといえる。

独占企業にその市場における地位の乱用行為があった場合、本法第34条に基づき、公正取引委員会は当該企業に対しその行為の停止または是正を要求することができるほか、行為者を3年以下の有期懲役、拘留に処しまたは1億台湾元以下の罰金を科し、もしくはこれを併科することができる。

独占禁止法に対する違反行為については、海外または台湾を問わず、近年、処罰額がますます高くなる傾向にある。法律に違反することを避けるため、公正取引法違反の可能性のある何らかの疑いが発生した場合は、法律の専門家に相談することをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。