商業不動産の賃借人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による大幅な売上減少を理由に、賃料の減額を請求できるのか?

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により台湾のカラオケ店、飲食業などの売上が大幅に落ち込んだため、台湾の著名なカラオケ業者である「星聚點」が2020年初めに、不動産オーナーを被告として賃料減額請求訴訟を提起しました。

星聚點(原告)の主張は、次のとおりです。

「当社の復興店は2009年に、賃貸借期間を2024年まで、1か月の賃料を431万台湾元あまりとする賃貸借契約を不動産オーナーと締結した。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した後、業績が大幅に落ち込み、すでに賃料を負担する能力はなくなっていた。話し合いを行っても、不動産オーナーは3か月間、賃料を15%減額することに同意しただけで、感染拡大が落ち着いた後にその金額を必ず補填しなければならないと要求した。星聚點は会社として生き残り、従業員の暮らしを守るため、やむを得ず、民法第227条の2第1項(契約成立後における事情の変更が当時予見できたものではなく、当初の契約の効果に従うと明らかに公平を欠く場合、当事者はその給付の増額・減額または他の当初の効果の変更を裁判所に申し立てることができる)に基づき、不動産オーナーを被告とし、2020年4月1日より、当面6か月間、賃料をもとの30%(約130万台湾元)まで減額するよう請求する。」

これに対し、不動産オーナー(被告)は、次のとおり反論しました。

「賃貸借契約において双方は『賃貸借期間中は賃料を調整しないものとする』ことを明確に約定 しており、民法第227条の2は契約で当初定めた秩序を破壊する絶大な効果を有しており、厳格に解釈すべきである。もちろんCOVID-19は新型ウイルスで感染力のあるものであるが、感染力のある流行性ウイルスはほぼ毎年出現しており、双方が契約締結後に予見不能なことではない。また、不動産オーナーが当面、賃料の支払を15%猶予することに同意したことは、すでに誠意のある譲歩である。したがって、星聚點の主張は不適法、不合理である。」

台北地方裁判所は審理した後、今年9月初めに「原告敗訴」の判決を下しました。

その主な理由は、「市場の状況や消費習慣の変化など、事業者の売上に影響を及ぼす原因は数多くあるため、感染拡大のみを理由に、双方が当初約定した本件賃料が、民法第227条の2の『当時予見できたものではなく、当初の契約の効果に従うと明らかに公平を欠く場合』の要件を満たしていると認定することはできない」というものです。

実務では、民法第227条の2を根拠として賃料の減額を請求する訴訟を提起しても、勝訴することは非常に難しいです。このため、賃貸借契約の締結に際しては、賃借人側の利益が保障されるよう、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大または類似の状況が発生した場合、賃借人は●●%の賃料減額または無条件の解約を要求することができるものとする」などの特約条項を盛り込んでおくことをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修