第397回 新型コロナの売上減でKTV賃料を減額請求できるか?

 新型コロナウイルス感染症の域内感染拡大により台湾のカラオケ(KTV)、飲食業などの売上高が大幅に落ち込んだため、台湾の著名なKTV業者である「星聚点」が2020年初めに、不動産オーナーを被告として賃料減額請求訴訟を提起しました。

賃料補填の義務があるか
 星聚点(原告)は、次のとおり主張しました。

 「当社の復興店(台北市)は09年に賃貸借期間を24年まで、1カ月の賃料を431万台湾元(約1,700万円)余りとする賃貸借契約を不動産オーナーと締結した。新型コロナ域内感染拡大後、業績が大幅に落ち込み、賃料を負担する能力がなくなった。話し合いを行ったところ、不動産オーナーは3カ月間、賃料を15%減額することに同意しただけで、感染拡大が落ち着いた後にその金額を必ず補填しなければならないと要求した。

 星聚点は会社として生き残り、従業員の暮らしを守るため、やむを得ず、民法第227条の2第1項(契約成立後における事情の変更が当時予見できたものではなく、当初の契約の効果に従うと明らかに公平を欠く場合、当事者はその給付の増額・減額または他の当初の効果の変更を裁判所に申し立てることができる)に基づき、不動産オーナーを被告とし、20年4月1日より、当面6カ月間、賃料をもとの30%まで減額するよう請求する。」

 不動産オーナー(被告)は、次のとおり抗弁しました。

 「賃貸借契約において双方は『賃貸借期間中は賃料を調整しないものとする』ことを明確に約定しており、民法第227条の2は契約で当初定めた秩序を破壊する絶大な効果を有しており、厳格に解釈すべきである。

 もちろんCOVID-19は新型ウイルスで感染力があるが、感染力のある流行性ウイルスはほぼ毎年出現しており、双方が契約締結後に予見不能なことではない。また、不動産オーナーが当面、賃料の支払いを15%猶予することに同意したことは、既に誠意のある譲歩である。したがって、星聚点の主張は不適法、不合理である。」

感染拡大だけが減収理由か
 台北地方法院(地方裁判所)は審理後、9月初めに「原告敗訴」の判決を下しました。その主な理由は、「市場の状況や消費習慣の変化など、事業者の売上に影響を及ぼす原因は数多くあるため、感染拡大のみを理由に、双方が当初約定した本件賃料が、民法第227条の2の『当時予見できたものではなく、当初の契約の効果に従うと明らかに公平を欠く場合』の要件を満たしていると認定することはできない」というものです。

 実務では、民法第227条の2を根拠として賃料の減額を請求する訴訟のほとんどが勝訴することができません。このため、賃貸借契約の締結に際しては、賃借人側の利益が保障されるよう、「新型コロナ感染拡大または類似の状況が発生した場合、賃借人は●●%の賃料減額または無条件の解約を要求することができるものとする」などの特約条項を盛り込んでおくことをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。