第396回 秘密録音の適法性

 日本では盗聴や秘密録音について明確に規定した法律はありませんが、台湾ではこれらの行為が違法となるケースについて、法律に規定されています。
 まず、刑法第315条の1第2号において、故なく、録音、撮影、録画または電磁記録により他人の非公開の活動、言論、会話または身体のプライベートな部位をひそかに記録した場合、3年以下の有期懲役、拘留または30万台湾元(約120万円)以下の罰金に処する旨が規定されています。

 また、通信保障および監察法第3条および第24条において、プライバシーまたは秘密が合理的に期待される他人の通信を違法に監察した場合は、5年以下の有期懲役に処する旨が規定されています。

正当な理由があれば無罪
 労働者と雇用主との間で未払い賃金に関して紛争があることから、労働者が高雄市政府労働局に労資争議調停を申し立て、その後、労働者が雇用主との会話を雇用主に秘密で録音していた事案(高雄地方法院106年度自字第3号判決)で、高雄地方法院(地方裁判所)は主に以下のような理由で、無罪と判断しました。

1.労資紛争が既に存在しており、労働者は、将来の労資争議訴訟において証拠として使用し自らの権利を保障するために録音したため、不法な目的があったとはいえず、当該録音行為は、刑法第315条の1第2号の「故なく」録音した場合には該当しない。

2.通信保障および監察法第29条第3号には同法適用の例外規定があり、監察者が通信の一方当事者であるか、または事前に通信の一方当事者の同意を得ており、かつ不法な目的によるものでなければ、処罰しないとされているところ、本件の労働者は、録音された会話の一方当事者である。

民事事件でも証拠能力あり

 上記事件とは別に、秘密録音の証拠能力(裁判の証拠として利用できるか否か)が問題となった民事訴訟(最高法院104年度台上字第1445号判決)で、最高法院(最高裁判所)は主に以下のような理由で、当該事案における秘密録音の証拠能力を否定した原判決を破棄しました。

1.他人の精神または身体の自由などの人格権を侵害した方法、顕著に社会道徳に反する手段、社会法益を厳重に侵害したか、または違背した法規が重大法益を保護している、もしくは違背行為の態様が公序良俗に違反する場合にのみ、違法収集証拠の証拠能力が否定される。

2.本件では、録音について相手方の同意を得ていないものの、録音者が現場におり、また録音した場所はバイク屋の中であり、一般客も出入り自由であった。

 以上の通り、秘密録音は全て違法というわけではなく、正当な理由がある場合やプライバシーが期待されないような場所での録音などは適法であると判断される可能性が高いです。ただし違法と判断されないよう、録音の目的に必要な範囲内で最小限度の時間にとどめることをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。