ペットが人に怪我をさせた場合の飼い主の刑事責任および民事責任

 台湾でかなりの知名度がある国民党前副秘書長の張栄恭氏が近所のシェパード犬「メアリー」に噛まれて負傷した事件について、士林地方裁判所は2022年1月10日に2021年度易字第494号刑事判決において、「メアリー」の飼い主のA氏が刑法第284条の過失傷害罪(過失により人を傷害した者は、1年以下の懲役、拘留又は10万台湾元以下の罰金に処せられる)に該当すると認定し、55日間の拘留に処しました。 

 本件の概要は次のとおりです。

張氏が2021年2月13日、その飼育する小型犬「花花」を連れてコミュニティーの庭園内を散歩していた時に、シェパード犬「メアリー」が突然跳びかかって来て「花花」を攻撃し、張氏は「メアリー」を制止しようと手を出しましたが逆に地面に押し倒され、当該シェパード犬は続けて張氏を攻撃し、張氏は腕、膝頭を噛まれて負傷する事態となりました。

 裁判所が「メアリー」の飼い主のA氏は過失傷害罪を構成するとの判決を下した主な理由は以下のとおりです。

1、本件では、「メアリー」の飼い主のA氏はコミュニティーの庭園内で犬を散歩させている時に、犬のリードを外し、犬に口輪またはそのほかの安全装置を付けておらず、また常にその傍に控えることもせずに、「メアリー」にコミュニティー内を自由に駆け回らせ、近所のほかの住人(張氏)の飼い犬を追いかけるのを放任したことにより、張氏がそれを制止しようと前に出た時に「メアリー」から攻撃され、負傷することとなった。

2、動物保護法第7条では「飼い主はその飼育する動物が理由なく他人の生命、身体、自由又は財産を侵害することを防止しなければならない」と定めている。A氏は本条の義務に違反しており、過失があり、かつ当該過失行為と張氏の負傷という結果には因果関係があるため、A氏の行為は過失傷害罪を構成する。

 台湾法では、ペットが人に怪我をさせた場合、飼い主には上記の刑事責任があるほか、民法第190条の賠償責任(動物が他人に損害を与えた場合、その占有者が損害賠償責任を負う。ただし、動物の種類および性質に応じて相当の注意を払って監督をしているとき、または相当の注意を払って監督していても損害の発生を免れないときは、この限りではない)もありますので、動物を飼育している人は、必ずその動物をしっかりと監視するようご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修