文化創意法の新法施行後はじめて「ダフ屋」が逮捕される

台湾では、「不正転売チケット」とは定価を超える価格で転売されるコンサートや演奏会などのチケットを指し、また「不正転売チケット」を販売する者は「ダフ屋」と呼ばれます。

新北市警察は今年(2023)9月にAというダフ屋を逮捕しました。Aは自身のコンピュータ技術者としての専門能力を活用し、コンピュータプログラムを利用してBLACKPINK、BTS、メイデイなど人気の高いコンサートのチケットを大量に購入した後、それらを高額で転売し、2か月あまりの間に27万台湾元を超える利益を得ました。この事件は、「文化創意産業発展法(以下『文化創意法』といいます)」の改正法が23年6月に施行された後はじめてダフ屋が逮捕された事件でもあります。

文化創意法第10条の1では、「(第1項)政府は、民衆の文化創意活動に触れる権益を保障し、文芸公演のチケットの正常な流通を確保することに尽力しなければならない。(第2項)文芸公演のチケットをその額面金額または定価を超える価格で販売した場合、チケットの枚数に基づき、主管機関は額面金額または定価の十倍から五十倍の過料に処する。(第3項)虚偽の情報またはその他の不正な方法により、コンピュータまたはその他の関連設備を利用して文芸公演のチケットを購入し、チケットの予約または受取の証憑を取得した場合は、三年以下の懲役に処し、もしくは三百万台湾元以下の罰金を科し、またはこれらを併科する。(第4項)主管機関は前二項の規則違反の事実を調査しまたは取り締まるために警察機関に人員派遣の協力を要請することができる。(第5項)主管機関は第二項、第三項に定める行為の告発・摘発に対し、告発者の身分情報について厳格に秘密を保持しなければならないほか、事情を斟酌のうえ報奨を与えることができる。告発者の身分情報についての秘密保持は、訴訟手続においても同様とする。(第6項)前項の主管機関が受理する告発事案の管轄、処理期間、秘密保持、告発者への報奨およびその他遵守すべき事項についての規則は、中央の主管機関が定める」と規定しています。

言い換えますと、新法の施行後、不正転売チケットの販売に対する罰金が大幅に引き上げられており、さらにダフ屋が特殊なコンピュータプログラムを用いてコンサートチケットを入手した場合、それを転売していなくても同様に刑事犯罪を構成することになります。また、ダフ屋を告発した消費者が報奨金を獲得することもできるようになりました。

しかしながら、インターネット上では人気の高いコンサートチケットの販売行為が今も数多く行われており、メディアの報道によれば、今の販売者はみな「自分たちはチケットを原価で販売しているのであって、価格を上乗せしてはいないため、文化創意法に違反していない。一定の金額の『代理購入料』、『労務報酬』、『行列並び料』」を受け取るだけだ」と公言しています。このような手法が文化創意法第10条の1第2項の違法行為を構成するか否かについて、裁判所などの司法機関はまだ明確な見解を示しておりません。

ダフ屋に対する取締りを法律で強化するほか、不正転売チケットの購入を民衆が自発的に拒否することが、ダフ屋の問題を徹底的に解決する根本的手段といえるかもしれません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修