第496回 医師は医療広告を掲載できるか?

憲法法廷が2023年11月3日に2023年憲判字第17号判決を下し、医療法第84条(非医療機関は、医療広告を行うことができない)における「医師による医療広告の禁止」に関する部分は違憲であると認定し、この部分は同日をもって失効となりました。

SNSで治療に言及

本件の概要は次のとおりです。

台北市の黄という医師が2015年10月に、その個人のフェイスブック(FB)ファンページに、その美容クリニックが提供する治療コース、治療効果などに言及する投稿をしたところ、台北市政府衛生局から、当該広告は医療法第84条の「非医療機関は、医療広告を行うことができない」との規定に違反していると判断され、過料5万台湾元(約23万4000円)という処分を受けました。

黄医師は当該処分を不服とし、不服申立てをしましたが却下されたため、さらに行政訴訟を提起し、台北地方法院(台北地方裁判所)の行政法廷に受理されました。

個人名義で掲載できるか

台北地方法院の裁判官は、本件について審理した後、医療法第84条の規定は医師の憲法上の言論の自由を侵害しており、また、当該規定が医療機関だけが医療広告を行うことができると制限していることは、医師の憲法上の職業の自由をも侵害していると判断したため、同裁判官は裁判手続の停止を決定し、医療法第84条が憲法に抵触するか否かの確認を大法官に申し立てました。

また、台湾では2022年より新しい憲法訴訟制度が実施されたため、本申立事件は新設された憲法法廷が審理することとなりました。

憲法法廷が本件を審理するに際して、医師会は「医療法第84条の規定が医療機関以外の『その他の機構(例えば美容所など)』は医療広告を行うことができないと制限していることは合理性があるものの、『医師』は医療広告を行うことができないと制限する根拠としては正当性を欠いている」との意見を表明しました。一方、医師の主管機関である衛生福利部(衛福部)は逆の見解を表明しました。

最終的に、憲法法廷が2023年11月3日に2023年憲判字第17号判決を下し、医療法第84条における医師による医療広告の禁止に関する部分は、憲法第11条の言論の自由の保障の趣旨に反すると判断したため、この部分は同日をもって失効となりました。

これにより、医師が個人名義で医療広告を掲載することは、違法行為ではなくなりました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。