第495回 性別変更登記

日本では、出生時に割り当てられた生物学的な性別と性自認が一致しないトランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更する際、生殖機能をなくす手術を必要とする「性同一性障害特例法」の規定(いわゆる生殖不能要件)について、2023年10月25日、最高裁判所が違憲判決を下しました。

台湾でも、2023年9月21日、戸籍上の性別変更登記を申請する際に性別適合手術の実施に関する診断書の提出を求めることについて、最高行政法院の判断が下されました(以下「本件判決」といいます)。

本件判決の概要は以下のとおりです。

診断書提出は必要か

戸籍上の男性であるAが高雄市にある戸政事務所に性別変更登記を申請したところ、戸政事務所は、Aが性別適合手術の実施に関する診断書を提出しなかったことを理由に、Aの性別変更手続きを拒絶しました。

なお、戸政事務所は、内政部が2008年11月3日に出した、戸籍の性別変更には性別適合手術の実施に関する診断書を必要とする旨の通達(內授中戶字第0970066240号、以下「本件通達」といいます)に従って当該処分を行ったようです。

Aは、性別の変更登記を求めて行政訴訟を提起しましたが、本件判決の原審では、性別の変更は、「生理構造または染色体と出生登記の性別が一致しない」場合に限られるとし、Aの主張を認めませんでした。

しかし、最高行政法院は、

1. 本件通達は、法律に規定されていない義務を課すもので、憲法第23条に規定される法律の留保の原則(行政権の発動には法律の根拠が必要であるという原則)に反し、かつ比例原則に違反し、性別変更登記申請者の身体権、健康権、人格的尊厳および人格権を深刻に侵害するものであること、

2. 戸籍法第21条は、生理的性別が出生登記後に変更した場合にのみ変更登請できるという制限をしていないこと

等を理由に、原審を破棄し、審理を差し戻す判決を下しました。

今後、性別変更登記の申請要件について法令等が整備され、性別適合手術の実施は不要とされるのではないかと予想します。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。