台湾法における「破産」

台湾法上の破産制度の概要は以下の通りである。

一、破産手続の開始

破産法第1条によれば、債務者が債務を弁済できない場合、同法に定められた和解または破産手続に従って、その債務を清算すると規定されている。
なお、台湾法上、裁判所に対して破産宣告を申し立てる権利を有する者は主として以下の通りである。

  1. 債権者又は債務者本人は、破産宣告を申し立てることができる。
  2. 株式会社の取締役会は、株式会社の資産がその債務弁済に明らかに不足する場合には、会社法上の更生手続きによる処理が採られる場合を除き、破産宣告を申し立てなければならないと規定されている。
  3. 裁判所は会社の業務及び財務状況に照らし、更生の可能性はないと判断したことを理由に、更生手続開始の申立ては棄却するものの、同会社が、破産条件には合致すると判断する場合には、その裁量により、破産宣告を行うことができる。

二、破産手続の進行

破産財団に属する財産の範囲を確定し、裁判所から選任された破産管財人が破産財団に属する財産を競売などの方法で売却し、売却によって取得した金銭から、破産管財人が破産財団の処分及び管理などによって生じた費用を控除し、残った部分を各債権者に分配することになる。なお、破産者が債務弁済に供する財産を有しておらず、破産財団を破産管財人の管理費用に供することができないときには、裁判所は、破産法第63条の規定により、破産の申立てを棄却することができる。

三、破産手続の終了

破産管財人は前述の手続に基づいて破産財団に属する財産を清算し、各債権者の債権額の割合に応じて分配した後、裁判所に報告しなければならない。なお、裁判所は当該報告書を受領した後、破産手続を終結させる裁定を下すことが可能である。

なお、破産手続に入った後の破産管財人の役割は、主として、公平中立の原則の下、各債権者の利益を配慮する立場に立ち、各債権者に対して弁済または配当することであるため、特定の債権者にのみ有利な扱いをする可能性は低いと言える。よって、債権者は債務者から債権を回収したいのであれば、戦略上、破産手続に入る前に、債務者と交渉などで解決するほうが得策であると考えられる。

また、通常、台湾企業は既存の債務を弁済するため、正式な破産手続に入る前に、当該企業の経営陣が会社の資産について買主を探し、可能な限り有利な価格で処分することが一般的である。その理由としては、破産手続に入ると、企業の資産に対する管理・処分権が、当該企業の経営陣から、裁判所が選任した破産管財人に移ることが挙げられる。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修