第350回 債権者が弁済を受領しない場合

 債務者が金銭を返済したいのに債権者が探しても見つからない、または債権者が誰か分からない、または債権者に金銭を返済したいと申し出た際に債権者が受け取らない場合、どうすればよいのでしょうか。

 この場合、債務者は民法第326条「債権者が弁済の受領を遅滞した場合、または債権者を確知できず、給付が困難になった場合、弁済する者は、債権者のために給付を供託することができる」との規定に基づき、弁済地の裁判所の供託所において、返済すべき金銭について債権者のために供託を行います。

 供託とは、債務者が債権者に返済すべき金銭を裁判所の供託所に差し出し、供託手続きを完了することをもって、債務者と債権者の間の債権・債務関係を消滅させることを指します。

供託の理由

 供託の理由については供託所は、法律の定める要件を満たしているかどうかを審査します。

 例えば、債権者の「受領遅滞」が理由となっている場合には、債務者が本当に給付を申し出たが債権者から受け取りを拒否されたのかを審査することになります。書面による証明を提出できることが望ましいです。

 債務者が金銭を返済しようとして、債権の金額どおりに為替手形を用意し、債権者に書留で郵送したが受け取りを拒否された場合には、供託所から供託を拒否されることがないようにするため、為替手形および郵便局から返送されたもとの郵便物の封筒を供託所の審査に供するため提出すべきです。

供託物の受け取り条件

 一方、債務者は、債権者が受領するに際しての不要な制限条件を注記すべきではありません。

 例えば、ある生命保険会社が利息の支払いを回避するため、被保険者が死亡し、保険の受益者が誰であるのかについて紛争が発生した後に、保険金の供託を行いました。

 ところが、供託物の受け取りに関して付する条件の欄に「受取人は、自らが当該保険契約の受益者であり、当該死亡保険金を受け取る権利を有することに関する裁判所の判決書を提出し、かつ当社より同意書を発行した上で、供託物を受け取るものとする」などと記載しました。

 紛争発生後、裁判所は「判決書を提出することは合理的であるが、生命保険会社より同意書を発行する必要があることは、債権者が給付を受領するに際して不要な制限条件を追加するものであり、債務の本旨に従って供託したものであるとは言い難く、弁済の効力を生じない。従って、供託後の利息は依然として給付すべきである」と判断しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。