第425回 債権回収時の仮差し押さえ手続き

 台湾で債権を回収しようとする場合、債務者による財産の処分を防ぐために、台湾の裁判所に仮差し押さえを申し立てることができます。仮差し押さえは、債務者の財産を一時的に差し押さえてその処分を禁じるという意味です。

 債務者に対する債権者の請求の種類は何種類もあり、全ての請求で仮差し押さえの申し立てが可能というわけではなく、「金銭の請求」または「金銭に転換可能な請求」に限り、仮差し押さえを申し立てることができます。ただし、将来強制執行が不可能になる、または執行が極めて困難になる恐れがない場合は、申し立てることはできません。

必要性と緊急性

管轄裁判所について

 仮差し押さえの申し立ては、以下の裁判所に申し立てます。

1.本案の管轄裁判所

 訴訟が係属中のまたは係属すべき第一審の裁判所を指します。ただし、訴訟が既に第二審に移行している場合は、第二審の裁判所が本案の管轄裁判所となります。

2.仮差し押さえの目的物の所在地の地方裁判所

 仮差し押さえを行うべき目的物または権利の所在地の地方裁判所を指します。仮差し押さえの目的物が債権または登記を要する財産権である場合は、債務者の住所または担保の目的物の所在地もしくは登記地を、仮差し押さえの目的物の所在地とします。

申し立て手続きについて

 債権者は申立書において、債務者に対する請求およびその原因事実を明記した上で仮差し押さえの必要性および緊急性について説明し、さらに契約書、手形などの証拠を添付しなければなりません。

 申立書の提出後は裁判所の決定を待ち、仮差し押さえを認める旨の裁判所の決定を受領すれば、当該決定で提供を命じられた担保金額(通常は仮差し押さえの申し立てにおける債権額の3分の1)にて裁判所の供託所に当該担保金を供託した上で、裁判所の民事執行処に仮差し押さえの強制執行(すなわち、債務者の財産を差し押さえること)を申し立てることが可能となります。

仮差し押さえの強制執行の実施について

 執行費用を納付した後は、原則として、債務者に対する強制執行を申し立てることができます。強制執行を申し立てる場合は、裁判所に執行の目的物を申告した上で、必要な証明書類(不動産登記簿謄本、銀行の預金口座の口座番号、勤務先の名称および所在地など)を提示しなければなりません。ただし、債務者が逆担保(通常は仮差し押さえの申し立てにおける債権額の全額)を提供した場合は、仮差し押さえを免じられまたは取り消すことができます。

 台湾の債務者による財産の処分を防ごうとする場合には、現地の弁護士に連絡を取り、仮差し押さえの申し立てを行うべきか否かについて討議することをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。